結納時の仲人の役割と心得は?

結納時の仲人は挙式の媒酌人を兼ねることも

かつて、仲人は双方の家の全権委任大使であり、「新夫婦の後見人」でもありました。しかし、結婚が本人二人の意思と責任によるものとなった現代では、その必要性はなくなりました。このため、仲人の機能そのものも変化しました。

従来の考え方では、仲人の果たす役割は大きく三つに分けることができました。第一に縁談からお見合いまでの紹介人的な役割を果たす仲人、第二には婚約から結婚準備までを立ち会う仲人、第三は挙式当日の媒酌と介添え役、つまり媒酌人を務める仲人です。

これらの役割を一組もしくは二組の仲人が通して担ったものです。しかし、お見合いよりも恋愛が増え、仲介の機能も変化しているいま、婚約の儀式である結納は仲介なしもあり、その立ち会い人だけを頼まれるケースは少ないでしょう。結納時の仲人役は、お見合いの折りの紹介者や挙式の媒酌人に依頼されることが多いようです。とくに、挙式当日の頼まれ仲人が親と面識のない場合は、結納時に立ち会って顔を合わせるケースも増えてきています。婚約に立ち会う仲人の役割は二人の婚約の証人になることと心得ましょう。

若い二人の希望に添って結婚までバックアップを

仲人の依頼を受けた場合は、自分が果たすべき役割はどの範囲か本人に確認するようにします。もし、本当は挙式の媒酌人まで依頼されているのに結納時だけの仲人と解釈していた場合、自分たちだけでなくこれから結婚する二人とその家族にも迷惑をかけることになりかねません。入念に打ち合わせをしておくことを忘れないようにしましよう。

また、どのような形の婚約になるのかも確認事項の一つです。結納ではなく婚約パーティや婚約式という形を本人たちが望んでいる場合もあります。しきたりどおり結納をするにしても、贈るのか交換するのか、仲人の手で取り交わすのか立ち会うだけなのかなど、その方法はさまざまです。こういったことも踏まえ、本人たちの意向をよく聞いておくようにしましょう。現代では、あくまで本人同士が決めたことを尊重するのが原則。仲人として若い二人の新しい人生のスタートをバックアップし、協力するようにしたいものです。仲人を依頼されるということは、一組の夫婦として社会的に信用を得ているという証拠です。祝いごとですので、一旦引き受けたら決して断ることのないようにするのが目上の者としての常識です。そして、結婚する二人の良き理解者、もしくは相談相手としての機能も併せもつことを心得ておきましょう。

仲人・世話人への謝礼は?

結納当日には「お車代」を仲人に贈る

結納贈りの使者や結納時の立ち会いを依頼した仲人へは、「お車代」としてその日に要した交通費にお手間代程度を包んで当日に渡します。お車代は仲人が自宅から最高の交通機関を使って往復したと考えて用意するのがエチケットです。このほか、結納のあと祝い膳でもてなしますが、多忙なようならお車代のほかに酒肴料を別に包んで贈るのがマナーです。

現代ではあまり見られませんが、結納時に仲人が双方の家を往復するような場合には、それぞれの側でお車代を包むのがしきたり。ホテルやレストランなど一か所に集まって結納を行うときは、一つの包みに双方の名前を連ねて贈ります。男性が仲人を同道して女性宅へ赴く場合は、実際の交通費は男性が払います。女性からもお手間代程度を包み、結納後の祝い膳を用意してもてなしを。仲人宅を使わせてもらった場合は、席料の意味でお礼をします。料理の費用は請求してもらって実費を払うか、その分を含めてお礼する方法があります。現金で受け取ってもらえないときは、商品券などを贈るといいでしょう。

仲人への謝礼は役割によって変わる

謝礼は仲人の役割によって違ってきます。縁談から婚約までお世話になった仲人なら婚約後にお礼をします。婚約後の次の吉日くらいに「御礼」として金包を菓子折りなどの上に載せて持参するのが一般的。婚約できたことのお礼のあいさつを忘れないようにしましょう。

婚約から挙式の媒酌人までお願いしている場合は、挙式後にまとめてお礼を。婚約の折には、お車代を包むだけで十分です。婚約だけの仲人なら、当日中にお車代にお礼を包んで渡します。表書きは「御礼」とします。

世話になった人への謝礼は仲人と同様に

結納時に仲人以外の世話人や立ち会い人をお願いしたときは、その謝礼も、仲人への謝礼と同様です。その日の交通費とお手間代をお車代として渡します。

ただし、挙式のときに媒酌人を務めてもらうならお礼は挙式のあとにして、当日はお車代だけを。縁談から婚約まで何かとお世話になった場合は、婚約後にお礼に伺うのがマナーです。婚約当日だけの証人として立ち会いをお願いした場合は、その日にお礼をします。

関西から以西の地方では結納の場合の謝礼は結納金の一割と言われ、その習慣が残っているところもあります。しかし、本人たちとの関係や先方の社会的地位、果たしてもらった役割に応じて気持ちを贈ればいいでしょう。

お礼やお車代は、紅白十本の結び切りの金包に「御礼」もしくは「お車代」と表書きし、二人の連名で贈ります。

Column

地方別にみる婚約前の儀式

北海道地方

かつては婚約に先立ち、仲人もしくは両親と本人が酒一升とするめ一束を持参して女性宅へ出向く「樽入れ」「決め酒」という儀式がありました。道東・道南地方では「御決酒」と言い、今はあまり見られない習慣です。

東北地方

青森県では婚約前に男性が女性宅を訪れる「樽入れ」「決め酒」の儀式をしていましたが、現在では結納の際に合わせて行われているようです。岩手県では「決め酒」を行うときに酒肴料として一人一万円×人数分を用意し、鯛やメヌケなどの赤い魚を持参することもあります。宮城県仙台市周辺では「貰受状」と「進参状」を取り交わすならわしがありますが、現在では結納時に行います。

関東地方

茨城県では婚約前の儀式として、仲人が双方の家で酒を酌み交わす「しめ樽」「樽入れ」が行われていました。これと同じような儀式を、群馬県では「樽立て」、埼玉県では「樽入れ」「口固め」などと呼んでいます。

変わったところでは、かつて神奈川県平塚市周辺で婚約に先立つ儀式を「契約」と呼んでいたそうです。これは本人同士が用意しておいてそれぞれの衣類を交換するというものでした。

北陸地方

富山県の場合,「決め酒」などの名称はとくにありません。しかし、男性側の母親が相手の女性へのみやげとして帯締めや帯揚げのセット、ネックレスなどのアクセサリー類や洋服などを菓子折りとともに持参することがあるようです。

信越・東海地方

新潟県の「決め酒」は、仲人と男性側の父親が酒二升とするめ、または魚をもって女性宅を訪れるしきたりです。郡部では、現在でもこうした習慣が見られます。

かつて、長野県では男性側の親と仲人が角樽一対と栄名料を女性宅へ届ける「お酒入れ」「手締め」などという儀式が行われていました。また、北信地方では「風呂敷を入れる」といって、仲人や男性側の親が縮緬の風呂敷を納めた桐箱を女性宅へ持参するならわしがあります。

愛知県では「決め酒」を「たもと酒」と言い、三河地方では「ないしょ酒」「とっくり転がし」などとも呼びます。知多地方では同じ儀式を「壷酒」といいますが、ここでは酒一升とするめ一束を仲人か男性の親が持参したときに結納の日取りを相談します。

近畿地方

京都府では結婚前に男性が女性宅を訪れ、女持ちの扇子を入れた桐箱を白木台に載せてさらに家紋入りの塗り台に置いて袱紗を掛けて差し出します。これは「見合い扇子」と呼ばれ、女性側は婚約を承諾するしるしとしてその扇子を納めます。女性は返礼として用意しておいた男持ちの扇子を贈るのがしきたりです。

また、大阪府下でも同じように扇子を用いた「とりかわせ扇子」の儀式をし、扇子を交換することによって本人同士の結婚の意思を確認し合います。

兵庫県但馬地方では「こぶし固め」という儀式が行れていました。かつては男性側が持参した酒肴を女性宅で調理してその場で食べ、酒を酌み交わすことで女性の結婚承諾の意を表していたようです。

中国地方

鳥取県米子市では、婚約前に男性が女性宅へ羊羹を持参し、女性側が受け取れば結婚承諾の意味になるという習慣があります。このとき「なまぐさを入れる」「樽を入れる」などと言って、箱詰めにした雌雄一対の鯛か角樽一対を持参することが多いようです。

島根県松江市の婚約を正式なものにする儀式は「固めの酒」「固めの肴」と呼ばれています。当日は、男性側が酒二本と鰹ぶしを二~三本女性宅へ持参します。

また、山口県では「かため」「寿美酒」という儀式が見られます。男性側が箱詰めにして用意した清酒二本と「寿美酒」と表書きした鯛などの酒肴を女性側に納めるのがしきたりです。

四国地方

特別な名称はありませんが、徳島県では結納に先立って両家で二人の婚約を認める儀式を行います。香川県高松市周辺は、男性側が「竹葉料」と表費きした金包を用意することがあります。これは末広などとともに女性宅へ届けますが、結納金とは別のものです。
高知県郡部では、いまでも仲人夫婦か男性側の両親が酒と鯛を女性宅へ届ける「したなまぐさ」という儀式を行っているところがあるようです。この際、結納の日取りを決めることになっています。

九州地方

福岡県久留米市などの筑後地方で行われる婚約前の儀式は「久喜茶」と呼ばれています。これは男性側の親族か仲人もしくは両親が酒一升と鯛一尾(地方により雌雄一対の場合も)、それに加えて、お茶を女性宅へ持参するのがしきたりです。このお茶には、「何度も出ないように」という意味から「これで結婚を決め、再度こうした儀式を持つ必要がないように」という気持ちが込められ、番茶が使われています。

熊本県では「寿美樽」というしきたりがあり、男性側が女性宅へ酒一升と鯛一尾を届けます。とくに男性本人が県外に居住している場合には結婚に対する自覚を促す意味で、いまでもこうした儀式を重視しています。

沖縄地方

沖縄県では婚約前に、男性から女性側へ酒肴を持参するなどのしきたりはありません。婚約前には両家であいさつ程度の行き来はあっても、儀礼としては結納が重視されています。沖縄県の結納は「さきむい(酒盛)」と呼ばれ、女性宅の仏間を会場にして双方の両親と本人同士、親族が列席して行われるのが一般的です。男性側は結納品のほか「むいちりー」という祝い料理の盛り合わせやサー夕ーアンダアギー、松風などの祝い菓子を用意します。女性側からの結納返しといったものはとくにありません。ただし、結納の三日後に「みっちゃぬうゆえー(三日後のお祝い)」として女性側が男性宅を訪れます。このとき、男性側が料理を持参するときに使った器に寿司や塩などを詰めて返すしきたりです。